カテゴリ:本の感想( 3 )

天才の爆発

岡本太郎の「芸術と青春」を読了。
いやあ、凄いの一言。
これまで、テレビでの「芸術は爆発だ!」という言葉やら、作品のエネルギーやらなんやらから、「頭のイカれたおっちゃん」くらいにしか思っていなかったけど、この本を読んだらイメージが一気に変わった。
理路整然としていながら明瞭簡潔で読みやすい文章で、難解なことをさらりと言ってしまう。
この著作では著者が青春時代を過ごしたパリでの出来事、母親岡本かの子、今日(この本が著された1956年辺り)の日本の女性・性のモラルについてを語っているけれど、それを芸術家の鋭い直感で誰にも理解できない世界を語っているのではなく、哲学や歴史に関する知識と共に誰にでも解る言葉で上品に、しかし少し皮肉に語っている。
第三部の「女のモラル・性のモラル」については、今の日本にも十分に通じることばかりで、読んでいて、「そうなのよ! そうなのよ!」と何度も頷いた。
この人学者でも十分やっていけるんじゃないのか、と思った。
「表現」について語っている場面は鳥肌が立つような迫力で、私のような無気力人間にも、
「あー、なんかしなきゃ! もっと写真撮らなきゃ!」
と思わせるくらいの熱がある。
知識ばっかりある「勉強オタク」のセンセの「芸術論」なんかより、この本を読んだほうがよっぽどためになるよ。
そういや、横尾忠則もインタビューを読んだらかなり理路整然としていて、なるほどと頷けるいいことを言っていた。
「簡単な言葉」「解りやすい」というと卑俗なイメージをもたれがちだけど、単に難しい言葉を並べ立てただけのつまらない文章、何の価値もないよねえ。
ロック系のミュージシャンも、麻薬やアルコールに溺れてたり、私生活滅茶苦茶でも、音楽に関してはまともなことを言っている人が多い。
評論家も素晴しい評論を序している人は沢山いるけれど、下手な評論家の言葉より、自分で血を流して苦労して得た人たちの言葉は重みが違う。
写真とか絵はビジュアル、構図やら光やら明るさを勉強するのも大事だけど、こういう「表現」についての真摯な姿勢を先達から学ぶのも大切だよなあ、とシミジミ思った。
今度は森山大道のエッセイを読んでみたいと思う。
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by volontaire | 2010-05-21 00:01 | 本の感想 | Trackback | Comments(0)

全ての風呂はローマ(と日本)に通ず

ヤマザキ・マリさんの「テルマエ・ロマエ」という漫画を読んだ。
表紙の絵が手拭と風呂桶を持った全裸(男性のアレもはっきりと描かれた)の彫刻で、その絵に度胆を抜かれて、帯の
「古代ローマの男、現代日本の風呂へタイムスリップ!」
という謳い文句に引かれ購入。
簡単な内容は、ローマのハドリアヌス帝の時代、時代遅れの公衆浴場に情熱を燃やす設計技師、ルシウス。
自分の情熱を理解してもらえず、悩んでいる折に入ったローマの公衆浴場で、なぜか現代日本の銭湯にタイムスリップ。
そこで見た銭湯のアイディア、風光明媚な壁画を描く、催し者のポスターを壁に貼る、風呂上りに飲む冷たいフルーツ牛乳の美味さ、などに感動し、戻ったローマでそれを実行したら大うけ。そして、その後度々、何か風呂のアイディアに詰まると、なぜか日本、しかも絶対に風呂(露天風呂、地熱を利用したオンドル)にタイムスリップし、それをローマに持ってきて、それが大うけする、というパターン。
「世界に名だたる勢力を誇ったローマ人も、日本の風呂の素晴しさには驚愕・感服」
というのが繰り返されるのは、ちょっと、立派なもの・優れたものは自分たちの起源を主張するどこぞの国の人たちの姿がちらついたけど(爆)、主人公のルシウスさんの可愛さによってそれはなくなった。
ルシウスさんはとにかく、お風呂が好きで、お風呂のことばっかり考えてる。で、とにかく真面目。タイムスリップした先で見た日本の風呂のアイディアも、驚くばかりじゃなくて、真面目に、真面目すぎるくらい分析。そこがちょっと間抜けで可愛い。
それに、自分が日本から持ち帰ったアイディアがローマで成功しても、
「あれは私の独自のものじゃない」
と罪悪感感じてるあたりも可愛い。
仕事に夢中になって、家を三年留守にして嫁に逃げられてるなんて、可愛すぎる。
下世話な言い方かもしれないけど、ルシウスさん萌えです。
それに、偉そうな言い方で恐縮だけれど、良くも悪くも、ヤマザキさんも狙ってるんだろうけど、「ぬるま湯感覚」の力の抜けた漫画で、あんま難しいこと考えずに読めたのがよかった。
私は古代ローマについてよく知らないけど、きちんと調べてあるんだろうな、というのが解る描写もちらほら。
「チェーザレ」てルネサンスのイタリアを舞台にした漫画を描いてる惣領冬実さんが、後書きや自分のサイトでで、服のベルトを描くのや街の俯瞰図を描くのにも色んな絵や資料をあたったことを書いてるけど、多分、ヤマザキさんも勉強なさってるんだろうなあ。
字だったら
「豪奢な衣装に身を包んだ」「荘厳な石造りの神殿の圧倒される雰囲気」
とかで誤魔化せるけど、絵だと細部まで描かないといけないもの。
それが、見ている上で邪魔にならないけど、かといって単なる思い付きを描いただけのつまんない漫画にしていない点だと思う。
ただ、まだ一巻読んだだけど、これからずっと、
「ルシウスさん風呂のアイディア詰まる→日本の風呂にタイムスリップ→ローマ帰って日本の風呂のアイディア大うけ、それに悩むルシウスさん」
てパターンがずっと続くと、ちょっと飽きてくるかも(偉そうですいません)
不定期連載だったのが、連載ものになるらしいですけど、どんな展開になっていくのか、不安と楽しみでいっぱい。
ヤマザキさんのブログ(こちら)を除くと、風呂だけじゃなくて、古代ローマと日本の比較文化の漫画にしていくつもりだとか。
漫画は編集さんとの兼ね合いもあるのでどうなるか解りませんが、ルシウスさんの純粋さと可愛さは変わらないといいです。
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by volontaire | 2010-03-13 17:57 | 本の感想 | Trackback | Comments(0)

怖い絵

中野京子さんの「怖い絵」を読んだ。
有名な西洋絵画に隠されたエピソードを語っていく、という本。
ぱっと見何でもない絵には、こういう歴史的背景や画家の境遇、それを鑑賞していた人たちの考えがあるんだよ、と。
一昔前に流行った、「本当は怖いグリム童話」のアプローチに通じるものがあった。
単純に面白かった。
所々で、著者の西洋の歴史や宗教への深い造詣が語られ、しかもそれが
「私ってこんなにたくさんのこと知ってるのよ」
という著者の単なる知識のひけらかしになっていなくて、現代に、しかも歴史も思想も宗教も違う日本人には解らないことを、解るように語っていてくれているので、読んでて
「ほうほう、こんなことが」
と、こちらの知識のツボを心地よく押してくれた。
それに、中野さん、すごく文章が巧い。
学者さんが書いた文章は堅苦しくて読んでてすごくストレスになるけど、全然ストレスにならない。
読んでてどんどん引き込まれて、あっという間に一冊読みきってしまった。
私が買ったのは第一弾で、まだ二冊目・三冊目あるけど、読んでみたいと思った。
でも、読んでて、
「本当に著者はこう思ってるのかな?」
と思った。
例えば、絵の主題になってるものがギリシャ神話の悲劇的な人物だったりして、
「この死に行く男の哀れで、見る者全てに言い知れない戦慄を与える悲痛な表情。これは単なる悲劇を描いただけに過ぎない。この画家がこの大作の制作に乗り出した時、この国では恐怖政治が行われ、無実の人々が残酷に処刑されていた。この男の胸に突き刺さる剣。剣は昔から権力の象徴であった。画家はこの絵を描くことで、横暴な権力への非難をしているのだ」
とか解説されてるんだけど、何かこの語り口、私が大学時代にやったレポートを思い起こさせるんだよね。
大学生の頃に、源氏物語絵巻に関するレポートを書かなきゃならなかった。
先ずやったのは、先行文献を読むこと。全部読もうとしたけど、根気のない私には無理で、適当につまみ読み。その中から、何人かの研究者が認めてることはピック・アップすることにする。丸写しはいけないから、できるだけ自分で書いた感じにする。でも長さが足りない。
だから、そして、絵をできるだけよく見て、何か適当な小道具を見つける。
確か、私が選んだのは、後に光源氏の子供の薫と匂宮が奪い合うことになる女性、浮船が絵巻物を読んでいる場面だったと思うけど、襖だか几帳だかにすすきが描かれていた。
原典は読んだことはないが、「あさきゆめみし」で大体の話の流れは知っているので、浮船が二人の男性の間で揺れ動くことになるのは知っていた。
すすきについて調べたら、「移ろいやすい女心の象徴」とかあった(記憶違いかもしれないが)ので、
「ここに描かれているすすきは移ろいやすい女心の象徴である。そして風に吹かれその身を揺らす様。それは後に二人の男性の間で揺れ動く浮船の運命を暗示しているのではないか」
とか書いたような記憶がある。
そんな感じに、櫛だの、他の人物が着てる服の色だの、微かに開いてる襖の隙間だのを、適当に登場人物の行く末や境遇と結びつけて、何とかそれなりの長さがあるレポートにした記憶がある。
勿論、中野さんは無知無学のばか者の私と違って、非常に教養のある方なのだけれど、結構な数の絵に全部が全部、心の底からそう思ってる、自分なりの解釈あるのかな、と、そこはちょっとだけ疑問。
この本が書かれた事情は知らないけど、中には、編集さんか誰かから、
「ちょっとこの絵に関する解説してくれません?」
て言われて、
「私、この絵余り興味ないんだけどなー」
とか思いながらも、何とか決められた量の解説書いた、てのは有り得ない話ではないと思うんだけどな。
「嘘を本当のように信じ込ませる技術」てのは、何も詐欺師だけが使うことではないので、読んでる人間は気をつけないとね。
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by volontaire | 2010-02-28 19:47 | 本の感想 | Trackback | Comments(0)